SARSは中国肺炎と呼ぶべきだ
2003/06/12
林建良/在日台湾同郷会顧問


日本では、SARSの呼び方を「新型肺炎」や「サーズ」にしたり、直訳の「重症急性呼吸症候群」にしたりしているが、何れの呼び方も適当ではない。まず、時間が経てば新しい病気ではなくなるSARSを、いつまでも「新型肺炎」と呼ぶわけにはいかない。それに、もともと、「SARS」(サーズ)は「 Severe Acute Respiratory Syndrome 」(重症急性呼吸症候群)の略称であり、症状を表現している便宜的な呼び方にすぎない。「症候群」と名付けられている病気は、複数の原因もしくは原因不明の要素からもたらされた病気である。しかし、重症かつ急性の呼吸症候を表す病気は、サーズウイルスの感染症だけではない。以前からある呼吸器の病気で、新生児から高齢者まで、さまざまな病因で引き起こされた「急性呼吸窮迫症候群」ARDS(Acute Respiratory Distress Syndrome)の臨床症状も、SARSと同じく重症かつ急性の呼吸症候である。独特な臨床症状と病理的特徴を有し、感染原因のウイルスまで特定されているSARSは、「疾患」(Disease)であって「症候群」(Syndrome)ではないのだ。香港風邪、スペイン風邪を引用するまでもなく、この病気の厳重性から考えれば、発生源が中国であるSARSは通称として「中国肺炎」と呼ぶべきであろう。

「中国肺炎」の呼称は中国に対する差別になるとの危惧もあるようが、たんなる通称ではなく、正式の学名になった「日本脳炎」の名称に差別を感じている日本人は果たして何人いようか。発生源を伝染病の病名にすることはむしろ普通であって、差別とは全く関係のないことである。いくら他国に被害を与えても非を認めない中国が、反省を込めて素直に「中国肺炎」の通称を受け入れることはなかろうが、「差別だ」と中国が反発すれば大議論になり、「中国肺炎」が蔓延した要因も徹底的に検証され、世界にとって有益であろう。

中国では、「中国肺炎」を「非典」と呼んでいる。「非典」とは「非典型肺炎」のことであり、典型的でない肺炎はすべて「非典型肺炎」と呼ばれている。「マイコプラズマ肺炎」や「退役軍人病肺炎」なども、「非典型肺炎」の部類に入るわけだ。「中国肺炎」は「マイコプラズマ肺炎」や「退役軍人病肺炎」とは比べられないほど強力な伝染力と致死力を持っている。「中国肺炎」を「非典」と呼ぶのは、中国人特有の責任逃れのまやかしでしかない。2003年2月26日、ベトナムのハノイで、中国系アメリカ人が初めて中国肺炎患者として確認されたが、その一年ほど前からすでに広東省あたりで広がっていたのではないかと、香港の新聞紙で報道されている。さらに、台湾大学付属病院伝染病部部長の張上淳教授は、2001年11月に広東省でなくなった台湾人ビジネスマンは中国肺炎で死亡した可能性が極めて高いと発表した。実際、広東省の衛生当局が外部に漏らさないように隠ぺい指令「内緊外鬆」(内部ではしっかりやるが、外部には何事もないようにみせろ)を出したことも報道された。この中国の隠ぺい体質が、台湾を含む世界に絶大な被害をもたらしたのである。

【略歴】 林 建良氏 一九五八年、台湾台中市で生まれる。八七年、日本交流協会奨学生として来日。東京大学医学部博士課程修了。東大病院等の勤務医を経て、栃木県今市市に塩野室診療所を開業。メールマガジン「台湾の声」編集長。台湾独立建国聯盟日本本部国際部長。日本李登輝友の会常務理事。在日台湾人の外国人登録証の国籍記載を「中国」から「台湾」に改正する「正名運動」プロジェクトを〇一年六月に発足させた。前期在日台湾同郷会会長。
医学博士。 座右の銘 「文武両道」 「書剣一身」。
 

 


2003/09/25 (産経新聞朝刊)

SARS 「中国南方系遺伝子が関与」 日本人は北アジア系 感染者ゼロの理由 台湾の教授分析 ( 9/25)
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 【台北=河崎真澄】アジアを中心に猛威を振るった新型肺炎(SARS)には中国南方系のヒトの遺伝子が直接関与しているとの研究結果を、台湾の馬偕記念病院(台北市)の林媽利・医学研究部教授がまとめ、二十四日に発表した。日本人に一人も感染者が出なかったのは、日本人の遺伝子が「北アジア系」に属するためだと林教授は分析している。

 林教授はSARS患者三十七人を含む台湾人三百五十六人の血液検体を集めて分析した。遺伝子に「HLA−B46」と呼ばれる組織抗原が含まれる人は相対的にSARS感染への抵抗力が弱い上、感染後は症状が重く、一方でこの組織抗原のない人はSARSへの抵抗力が強く、感染しても症状が軽いことが分かった。

 この組織抗原「HLA−B46」は、中国大陸の福建や広東からベトナムにかけての地域の「中国南方系」の遺伝子をもつ人に多く存在し、日本人や韓国人、モンゴル人など「北アジア系」とは異なる免疫反応を示すとしている。カナダなどアジア以外でSARS感染した人のほとんどが中国南方系の華僑・華人だったと林教授は指摘した。

 日本人など「北アジア系」だけでなく、「ポリネシア系」とされる台湾先住民にも患者発生は報告されなかった。世界で約八千五百人報告されたSARS患者のうち中国と香港、台湾、シンガポール、ベトナムで90%以上を占めていた。

 林教授はさらに分析研究を進めるほか、組織抗原「HLA−B46」の有無を調べる検査試薬を作り、医療機関に配布することにしている。

(2003/09/29 の E-Magazine より)

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